LockBit 3.0への注意喚起とCortexによる対策

Jun 06, 2023
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概要

「LockBit」は流行中のランサムウェアです。初めて確認された2019年9月以来、Cortex脅威リサーチチームはこのランサムウェアを追跡してきました。活動は2019年以降急速に拡大し、LockBit 2.0 (2021年中旬)やLockBit 3.0 (2022年6月)などのアップデート版が出現しています。

LockBitランサムウェアの活動形態はRaaS (サービスとしてのランサムウェア)方式であり、拡散にはアフィリエイト(ランサムウェアの提供を受けて実際に攻撃を行う人物)を利用します。アフィリエイトが多様なTTP (戦術、手法、手順)を用いてランサムウェアを展開し、世界中で様々な企業と基幹インフラ組織を攻撃するのです。また、LockBitの運用は「普通の」企業活動と同じように行われます。その結果、毎月多数の被害者を出す世界で最も高収益で活動的なランサムウェアグループとしての地位を得ています。

2023年版Unit 42ランサムウェア&脅迫レポートによると、LockBitは2022年に801の被害組織の情報をリークサイトに投稿しました(前年比95%増)。また、2022年にリークサイトで共有されたランサムウェア関連の侵害イベントの46%をLockBit 2.0が占めます(2022年5月25日時点)。LockBit 2.0のRaaSリークサイトに名前と情報が掲載されている被害組織は850を超えます。2023年についても、LockBit 3.0がランサムウェア脅威環境を席巻する見込みです。

2022年3月にLockBit 2.0の重大なバグが発見された後、LockBit 3.0 (別名: LockBit Black)が開発されました。LockBit 3.0では2.0のバグを修正し、公開の「バグ報奨金」プログラムまで実施したほか、回避能力を高める機能が追加されました。

従来のLockBitの活動では、Windowsサーバー、Linuxサーバー、VMware ESXiサーバーへの攻撃を意図したペイロードを用います。しかしながら、2023年4月にVirusTotalへアップロードされたアーカイブに含まれるテストビルドから、LockBit 3.0にはmacOS、ARM、FreeBSD、MIPS、SPARC CPUの暗号化を意図したペイロードが含まれることが判明しました。この事実はランサムウェア脅威環境の著しい変化を示しています。すなわち、従来はランサムウェア攻撃を受ける恐れがほとんどないと考えられていたApple製品が狙われているのです。

Cortex XDRは、振る舞いに基づく脅威防御やエクスプロイト防御などの多層防御によってお客様をLockBitランサムウェアから守ります。

図1. LockBit 3.0のTor webサイト
図1.LockBit 3.0のTor webサイト

図2. LockBit 3.0のTor webサイト
図2.LockBit 3.0のTor webサイト

初期アクセス

上述の通り、LockBitランサムウェアの活動形態はRaaS (サービスとしてのランサムウェア)方式であり、拡散にアフィリエイトを利用します。アフィリエイトは組織に侵入してランサムウェアを展開するために様々な攻撃手段を用います。アフィリエイトごとに手段が異なるため、明確な攻撃パターンの把握は簡単ではありません。

研究者とインシデントレスポンダーが収集した情報から、LockBit攻撃では初期感染経路として以下の手段を用いることが確認されています。

  • リモート デスクトップ プロトコル(RDP)をエクスプロイトして標的ネットワークに初期アクセスする。
  • ドライブバイ攻撃を通じて標的ネットワークに初期アクセスする。
  • フィッシングキャンペーンを通じて標的ネットワークに初期アクセスする。
  • 正規アカウントを不正利用して標的ネットワークに初期アクセスする。使用するアカウントはハッキングフォーラムで購入するか、ブルートフォース攻撃で取得する。
  • 公衆インターネットからアクセス可能なアプリケーションをエクスプロイトして標的ネットワークに初期アクセスする。

データの盗み出し

近年登場したランサムウェアの例に漏れず、LockBitグループも流行の二重脅迫を行います。これは攻撃中に機密ファイルや機密情報を被害者から盗んでおき、身代金を支払わなければデータを公開すると脅す手口です。

研究者とインシデントレスポンダーが収集した情報から、LockBitのアフィリエイトはデータの盗み出しに以下のツールを悪用します。

  • WinSCP
  • Rclone
  • MEGA Ltd MegaSync
  • FileZilla

この他にも、LockBitチームが開発したツール「StealBit」を用いてデータを盗み出す場合があります。

StealBitはLockBit 2.0の一要素として登場したツールであり、Windows版LockBitやLinux/ESXi版LockBit等とともに攻撃ツール集としてアフィリエイトに提供されます。最も高速かつ容易にデータを盗み出せるソリューションであると開発グループは主張しています。

図3. LockBit 2.0のTor webサイトに掲載されたStealBitのスペック比較
図3.LockBit 2.0のTor webサイトに掲載されたStealBitのスペック比較

興味深い点として、古いビルドのStealBitは実行にパスワードを要求しませんでしたが、LockBit 3.0と同時期の2022年7月頃に作成された新しいビルドはパスワードを要求します。

この変更は、セキュリティ研究者によるコードの分析と調査を避けようとする攻撃グループの全般的な試みと一致しています。

ランサムウェアの実行

LockBit 3.0は振る舞いを決める様々なオプションをコンパイル時に設定します。組込みのオプションもあれば、コマンドラインからパラメータを指定して有効化できるオプションもあります。LockBit 3.0の機能は以下の通りです。

  • EXE、DLL、反射型DLL、PowerShellとしてWindows上で柔軟に実行可能。
  • 管理共有を利用したネットワーク上での自動拡散
  • 組込みのポートスキャナを利用してSMB、WebDav、DFSなどの共有ファイルをすべて検索
  • ネットワークプリンタを用いた脅迫文の印刷
  • グループ ポリシー オブジェクト(GPO)を通じて拡散可能
  • 拡張子、アイコン、脅迫文、壁紙の変更
  • 自己削除
  • マシンのシャットダウン
  • セキュリティソリューションを回避するためセーフモードで実行
  • プロセス、サービス、セキュリティソリューションのシャットダウン

この他にも、アフィリエイトの要望に応じて機能を追加できる柔軟性があるとLockBit 3.0グループは主張しています。つまり、ランサムウェアにモジュール構造を採用しています。

上述の通り、各種パラメータを指定してランサムウェアの振る舞いをさらに改変することも可能です。

-pass (32文字値) (必須) LockBit 3.0の起動パスワード
-del 自己削除
-gdel LockBit 3.0のグループポリシーの変更を削除
-gspd グループポリシーを通じた水平拡散
-path (ファイルまたはパス) 指定したファイルまたはフォルダのみを暗号化
-psex 管理共有を通じた水平拡散
-safe ホストをセーフモードで再起動
-wall LockBit 3.0の壁紙を設定し、LockBit 3.0の脅迫文を印刷

表1. LockBit 3.0がサポートする引数

新たに暗号化したファイルに追加する拡張子と脅迫文は被害者ごとに異なり、9桁のランダムな文字列(例: T0p50Ce4N, Fx44f6z3n, 8GxwvnaA3)が含まれます。

被害者のマシンに残される脅迫文の内容は、マシンへの攻撃の内容、グループへの連絡方法、身代金の支払い方法です。

図4. LockBit 3.0の脅迫文
図4.LockBit 3.0の脅迫文

脅迫文が見落とされないようにするため、LockBitは壁紙を変更して脅迫文を読むよう指示します。

図5. LockBit 3.0の壁紙
図5.LockBit 3.0の壁紙

暗号化されたファイルのアイコンはLockBitのロゴに変更されます。

図6. LockBit 3.0のアイコン
図6.LockBit 3.0のアイコン

ランサムウェアは実行後に自己削除を試みます。その手段として、痕跡の削除を担う別の実行ファイル(この例では8B76.tmp)を投下します。

図7. Cortexプラットフォーム(レポートモード)上に表示されたLockBit 3.0の実行
図7.Cortexプラットフォーム(レポートモード)上に表示されたLockBit 3.0の実行

8B76.tmpファイルはランサムウェアバイナリの内容を上書きし、ファイル名を複数回変更します。この際、元のファイル名の長さから新しいファイル名が決まります。今回の例の「LockBit.exe」は拡張子込みで11文字のため、8B76.tmpファイルが「AAAAAAAAAAA」、「BBBBBBBBBBB」…「ZZZZZZZZZZZ」の順にファイル名を変更してから最終的に削除しています。

このルーチンの意図は、痕跡を完全に削除してフォレンジックツールによるランサムウェアバイナリの復元を防ぐことだと考えられます。LockBitランサムウェアグループは研究者からツールを守るため多数の対策を講じており、このルーチンもそれに合致します。

図8. Cortexプラットフォーム(レポートモード)上に表示されたLockBit 3.0の削除プロセス
図8.Cortexプラットフォーム(レポートモード)上に表示されたLockBit 3.0の削除プロセス

保護と緩和策

パロアルトネットワークスのお客様はLockBitランサムウェアとStealBitマルウェアから保護されます。

図9. LockBit 3.0の実行のブロックをエンドユーザーに通知
図9.LockBit 3.0の実行のブロックをエンドユーザーに通知

図10. StealBitの実行のブロックをエンドユーザーに通知
図10.StealBitの実行のブロックをエンドユーザーに通知

SmartScore」はセキュリティ調査手法と関連データをハイブリッドなスコアリングシステムに変換する、MLを利用した独自のスコアリングエンジンです。このインシデントに対してSmartScoreは最大の深刻度を示す100点を付けました。

図11. このインシデントに関するSmartScoreの情報
図11.このインシデントに関するSmartScoreの情報

パロアルトネットワークス製品をご利用のお客様は、弊社の製品・サービスにより本グループに関連する以下の対策が提供されています。

  • クラウドベースの脅威分析サービスであるWildFireは、既知のサンプルを悪意のあるものとして正確に特定します。
  • Advanced URL FilteringDNSセキュリティは、同グループに関連するドメインを悪意あるものとして識別します。
  • Cortex XDRはユーザーアクティビティを分析してユーザーや資格情報を悪用した脅威を検出します。分析には、エンドポイント、ネットワークファイアウォール、Active Directory、IDアクセス管理ソリューション、クラウドワークロードなど多様なデータソースを用います。また、機械学習を用いて時間の経過とともにユーザーアクティビティの振る舞いプロファイルを構築します。その上で過去のアクティビティ、類似ユーザーのアクティビティ、ユーザーの想定アクティビティを新規アクティビティと比較することで、資格情報を悪用した攻撃の兆候である異常な活動を検出します。
    この他にも、Cortex XDRにはこの記事で説明した攻撃に関する保護機能があります。

    • 既知の悪意あるマルウェアの実行を阻止。未知のマルウェアについても、振る舞いに基づく脅威防御機能とローカル分析モジュールに基づく機械学習を用いて実行を阻止。
    • Cortex XDR 3.4から利用可能な新機能「資格情報収集保護」を用いて、資格情報の収集に使用されるツールとテクニックを防ぐ。
    • Cortex XDR 3.4の「Webshell対策」機能を用いて、webshellからのコマンドの投下と実行を防ぐ。
    • エクスプロイト対策モジュールと振る舞いに基づく脅威防御機能を用いて、様々な脆弱性(ProxyShell、ProxyLogon、OWASSRFなど)を防ぐ。
    • Cortex XDR Proは、Cortex Analyticsを用いてエクスプロイト後の活動(資格情報を悪用した攻撃など)を検出。

侵害の懸念があり弊社にインシデントレスポンスに関するご相談をなさりたい場合は、こちらのフォームからご連絡いただくか、infojapan@paloaltonetworks.comまでメールにてご連絡いただくか、下記の電話番号までお問い合わせください(ご相談は弊社製品のお客様には限定されません)。

北米フリーダイヤル: 866.486.4842 (866.4.UNIT42)

欧州: +31.20.299.3130

アジア太平洋: +65.6983.8730

日本: +81.50.1790.0200

パロアルトネットワークスはファイル サンプルや侵害の兆候などをふくむこれらの調査結果をCyber Threat Alliance (CTA) のメンバーと共有しました。CTA のメンバーはこのインテリジェンスを使って、お客様に保護を迅速に提供し、悪意のあるサイバー攻撃者を体系的に阻害できます。詳細についてはCyber Threat Allianceにてご確認ください。

IoC (侵害の指標)

LockBit 3.0

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LockBit 3.0 - .tmpファイル

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StealBit

より新しいバージョン

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より古いバージョン

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追加リソース


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